2009年3月27日星期五

アセアンに進出した日本企業が陥りやすい失敗点とその対処法(後編)_jp

アセアンに進出した日本企業が陥りやすい失敗点とその対処法(後編)
優秀な現地スタッフの確保が成否を分ける

 前回は数馬輝明国際化支援アドバイザーに、中小企業のアセアンビジネスで陥りがちな失敗につながりやすい事例として、技術移転、労務管理、人材定着についての対処策を解説していただいた。今回も引き続き数馬アドバイザーに、アセアンで事業展開する上で失敗に陥りやすい債権回収と、ビジネスの行方を大きく左右する現地での人材確保についてお話しいただいた。


 実情に即した債権回収の社内体制を整える
 アセアンに進出した企業が苦労することのひとつとして、売掛金、つまり債権の回収が挙げられるだろう。債権が回収できなければ不良債権化して経営を圧迫することになり、最悪の場合は現法の死活問題にまで発展しかねない。

 「単純な例で説明すれば、100の売上げに対して10の純利益がある企業の場合、もし売掛債権100が焦げ付くと、その100の損失を補填する為には、その10倍の1000の売上げを達成して初めて当初の損失補填が可能となる。これだけでも、いかに代金、つまり債権の回収が重要であるかがわかるでしょう。そういう意味で、債権回収は営業活動以上に重要だとも言えます」
 「アセアン諸国では手形による代金支払いは一般的ではなく、小切手で支払いがされることがほとんどです。このことが債権回収をより難しくしている原因でもあります」


――債権回収で心がけることとしては、どういったことが挙げられますか。
 「第一に、日本的なやり方に固執したり、原則論を押し付けようとしてはいけません。日本では商品を販売した場合、見積書⇒注文書(Purchase Order=PO)⇒納品⇒検収⇒支払い、というプロセスを踏みますが、アセアンでは商品を納入してからPOが出る、ということがよくおこなわれています。しかも中小企業の場合は小口の物資取引が主であることから、相手側にすれば取引ごとにPOを発行するのは煩雑で現実的に難しいということもあり、場合によっては、POが発行されないこともありえます。こうしたことには、例えばトータル数量で一括契約にする等、臨機応変に対応できる体制をつくっておく必要があります」
 「第二に、事細かに記録を残しておくことです。債務の支払義務は、シンガポールで6年などというように、国によって時効が決まっていますが、『期間内に相手企業に未払債権の督促をした』という事実がドキュメントで残っていれば、時効を延長することができます。つまり、ドキュメントとして残しておかないと債権を回収できなくなる可能性があるのです。この場合は、相手方のPOと社内の配送指示書(Delivery Order=DO)が対応するように発注⇒出荷⇒回収のプロセスをチャート化し整理しておき、誰にでもわかるようにしておくことです。また、商品発送時の運送会社の伝票を保存しておくなど、万が一に備えておくことです。こうした社内体制を整えている中小企業は多くないでしょうから、早急に対応すべきです」

――相手企業がPOを発行してくれなかった場合はどのように対処すればよいでしょうか。
 「通常、商品を発注した時点で、各オーダーにPOナンバーが付されます。POナンバーが発行されたら正式な取引とみなされますから、必ず先方にPOナンバーを照会することです。PO受領前に出荷を要請される場合には、予定POナンバーを通知してもらえなかったら、出荷を見送るくらいの対応が必要です。また、万が一トラブルになった場合に備えて、POナンバーを発行している相手企業の部署がどこかをきっちりと押さえておきましょう。生産部(製造部)から商品発注通知があっても、資材部や購買部が実際にはPOナンバーを決定するといったように、発注決定とPOナンバーの発行部署が異なる場合も多いので注意が必要です」

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 現地人スタッフに任せつつ、要所は押さえる
 このように日本とは違う商習慣を持つアセアンでは、前回の労務管理と同様に、経理についても現地の優秀な人材を雇うことが鉄則だ、と数馬アドバイザーは語る。
「アセアンでは債権回収でも日本の流儀が通じないケースが多々あります。ですから、現地の事情に精通した現地人スタッフに経理の実務を任せるのが得策です。日本人のマネージメントは債権回収のポリシーを構築し、現地人だけでは立ち行かなくなったときなどに出て行く、というかたちにするのがよいでしょう」

――商習慣の違いということでは、他にどのようなことが挙げられますか。
 「日本に比べて支払条件に対する感覚が希薄であることが挙げられます。due date(支払期日)は納品から90日とか120日というように売先相手や個別の取引ごとに決められていますが、注文書にdue dateが書かれていないケースがほとんどであるうえ、期日が決められていても、ほとんど期日が守られないことが多いのです。とはいえ、彼らは支払う意志がないのではなく、10~11カ月遅れてでも支払いはしてくれるのです。ただし、頻繁に督促すると『そんなにうるさく言うのであれば、他のところに発注する』ということになりかねません。また、そもそも手形割引金利のような概念がないので、支払いが遅れたことに対して延滞金利等を要求するとトラブルに発展する可能性もあります。こうした現地の事情を日本人が完全に理解することは不可能です。ですから、債権回収は現地人スタッフに任せたほうがよいのです」

――そこで注意すべき点としてはどういったことがありますか。
 「前回お話しした生産管理と同じなのですが、債権回収を現地人スタッフに任せるとはいっても、日本人の経営陣もちゃんと実情を管理できる体制をとっておかなければいけません。私はdue dateごとに債権の残高をリストアップし、日本人管理者は書類を全てコピーして持ち歩くようにしています。こうすれば『何かあった際には何時も自分もチェックできる』ということを現地人スタッフに解らせることができ、また、現地スタッフに対して"無言のプレッシャー"にもなるのです」

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中小企業志向が強いアセアンの人材
 前回の製造現場の管理も含め、アセアンの事業展開では優秀な現地人スタッフの確保が成否を大きく左右するとしても過言ではない。だが、現地人の人材を社内で育成するには時間がかかる。設立から事業が軌道に乗るまでの数年間は、人材斡旋会社などを利用して、現地で人材を採用することになるだろう。

――中小企業がアセアンに進出する際に、大手と比べて知名度の低さなどにより優秀な人材の確保が難しいと思われますが、その点はいかがでしょうか。
 「意外に思われるかもしれませんが、アセアンでは現地人スタッフが日系大手から日系中小企業に転職するケースが多いのです。大企業は日本や他地域での成功体験もあることから、現地人スタッフに対して固定した観念を押し付けようとする傾向があります。その一方で、中小企業は弾力的で個人の創造性を重視する企業が多いと言えます。こうしたことから、海外展開全般についても中小企業のほうが小回りがきいて、うまくいく場合も多いのです」
 「現地人スタッフの活用でも、大企業の現地法人は定型的な業務しか任せないことが多いことから、これに飽き足らない人材が創造的な仕事を求めて中小企業に移ってくるのです。これら大企業出身者は、基礎的な教育がすでになされていることから、マネージャーとしての教育もしやすいという点で中小企業にとってもメリットになります」

――こうした優秀な人材はどのように確保すればよいのでしょうか。
 「多くの場合は、人材斡旋会社を経由して人材を探すことになるでしょう。しかし人材斡旋会社を使うと、採用後3カ月などの一定期間を過ぎた時点で年俸の30%程度を人材斡旋会社に支払うことになっています。ですから万が一、採用後1年経ってから能力が期待に及ばないことがわかったり、優秀な人材であっても途中で辞められたら、人材会社に支払った費用も含めて大きな損失となってしまいます」
 「そこで、新聞の求人欄を活用する方法もあります。新聞広告は1回の掲載につき2~3万円と、比較的安上がりですみます。また、人材斡旋会社に登録している人材は求職者の一部に限られますが、新聞広告は多くの人が目にする機会があります。つまり、幅広い人材を集められるというメリットもあるのです」

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――人材採用の際に注意すべき点などはありますか。
 「ジョブホップが激しいアセアン諸国では、『転職はキャリアのワンステップに過ぎない』と考えている人が多いことも事実です。『日系企業に就職すれば、研修で日本に行ける』など、自分のキャリアに箔をつけようと日系企業を希望する人も少なくありません。また、面接時に自分の資格及び転職歴などを主張して、本当の実力とは別にして『自分の給料はこれくらいが妥当だ』などと言ってくる人もいます。短い面接時間だけでは、その『人となり』を十分に見極めるのも難しいでしょう。私の場合、迷ったときには現地スタッフの意見も聞きながら参考にしつつ、最終的には自分の面接時の"第一印象"を決め手にしています」
 数馬アドバイザーのお話を総合すると、アセアン諸国での失敗には、文化面での理解不足が大きく係わっているようだ。何事も「日本式」を押し付けることなく、現地のビジネス流儀や実情に合わせた方法を実践することが求められる。そこで大きな役割を果たすのが優秀な現地人スタッフであると言える。

国際化支援アドバイザー

数馬 輝明(かずま てるあき)
 化学メーカーを経て商社に入社。素材関連部署を経て、1987年にクアラルンプール駐在。電機・自動車部品生産の現地合弁会社業務に携わる。帰国後、ゴム部品の関連会社社長を経て大手メーカーに移り、シンガポールのManaging Directorに就任。現在この種のメーカーではアセアンNo.1企業に成長している。


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